慢性腎臓病(CKD)を患っている患者さんのカルテにときどき急性腎不全や急性腎障害(AKI)の文字が混じって書いてあることがあります。
急性、慢性という日本語を考えれば、どうしても急性硬膜下血腫と慢性硬膜下血腫の関係の様に、急性だったものが、一定の時間を過ぎて慢性になっていく、もしくは一旦は症状が治まったものの、再び現れて慢性的な症状になっていくというイメージをもってします。
なので、そうしたイメージのままで考えれば、急性の腎疾患が慢性になったのだから、慢性と書いてあれば、もはや急性の病態のものはいらないんじゃないかと思ってしまいます。
でも、それが病気によっては、そうしたイメージに当てはまらないものがあるんですよね。この慢性腎臓病(CKD)と急性の腎疾患の関係もそうです。
そもそも前提として、慢性腎臓病と急性腎不全や急性腎障害(AKI)などの急性の腎疾患とはまったく違う病気です。急性の腎疾患は、基本的に脱水などの原因で、急激に腎機能が低下した病態です。なので、適切な治療を行って腎臓の機能を悪化させた原因を取り除くことが出来れば、たいていの場合は回復します。一方で慢性腎臓病は、糖尿病や腎硬化症などが原因で、長い年月をかけて腎臓の働きが悪くなっているという前提があるために、一度悪化した腎機能が回復する見込みがないものです。
ようするに、急激に一過性的に腎機能が悪化する場合と、元々糖尿病などの腎臓が悪くなる疾患があった上で徐々に腎機能が低下していく場合とは、その原因も機序も悪化のスピードも予後違うということです。そう考えると、この二つは基本的に違う病気であり、違う病気である以上、この二つが重なるということもありうるというわけですね。
例えば、もともと糖尿病性腎症が元で慢性腎臓病を患っている人が、脱水状態になって、さらに腎機能が急激に悪化するということもありうるわけです。そうした場合は、元々あった慢性腎臓病は病名としてつくのは当然ですが、脱水によって起こった急性の腎疾患もまた原因が違うのだから病名としてつくわけです。
なので、慢性腎臓病の併発病名として急性腎疾患がカルテに記載されていたとしても、何ら問題はないというわけですね。どの病気にも言えることですが、急性と慢性の違いって結構厄介なんですよね。