抗生物質の発見と耐性菌の誕生の終わりなきイタチゴッコ

つい百年ほど前まで、人類は菌に対して無力でした。しかし1928年にイギリスの細菌学者フレミングが、偶然からアオカビがブドウ球菌を殺すことを知ります。そして、1940年に化学者ブローリーによって最初の抗生物質であるペニシリンが開発され、人類はペニシリンをはじめとする抗生物質によって、平均寿命を急上昇させてきました。長い間人類を苦しめてきた、結核、ペスト、チフス、赤痢、コレラなどの伝染病の脅威から逃れられるようになってきたというわけですね。

でも、人類の安寧はそう長くは続きませんでした。抗生物質が効かない細菌、いわゆる耐性菌が出現したんですね。新たな抗生物質を開発し、濫用すればするほど耐性を持った菌だけが生き残り、増殖してしまうという皮肉な結果になっているんです。

こうした耐性菌の中で、今現在最も問題になっているのが、「メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)」ですね。これは抗生物質が多用される大病院などで多く発生し、「院内感染」として大きく問題になっているんです。

現在、MRSAに対して使える抗生物質バンコマイシンだけです。バンコマイシンは、登場以来40年以上も耐性菌が出現せずに使われてきましたが、ただ1997年には、ついにバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が登場してしまいました。その後もリネゾリドという抗生物質とはまったく違った機構によって細菌の増殖を防ぐ人工合成の化合物が開発されましたが、すでに耐性菌が出現してしまっています。

抗生物質は、細菌と戦う人類にとって、非常に有効な手段ですが、それを使えば使うほど、さらに強力な細菌を作り出してしまうという終わりの見えない負の連鎖を作ってしまいます。また人為的に耐性を他の菌に組み込むことによって、テロでも使える強力な化学兵器を作ることも可能です。

いかに濫用を防ぎ、また悪意を持つ人間にその知識や設備を与えないように管理するのか、人類が今後も抗生物質によって細菌から身を守っていくためには、こうした基本的なリテラシーを世界中で守れるような仕組みを作っていく必要がありますね。