縦隔腫瘍② 胸腺腫

 
やまねこ
胸腺腫は低悪性腫瘍なので、転移をすることもあるニャ

【胸腺腫とは?】

胸腺とは、縦隔と呼ばれる部位にあり、実際には身体のほぼ中央で胸骨の後ろ、心臓の前面にある小さな臓器です。胎児から幼児にかけて身体の免疫をつかさどる重要な働きを持っていますが、成人になるとその機能を終えて退化します。

胸腺腫とは原因はまだハッキリとわかっていませんが、胸腺から発生する低悪性腫瘍です。縦隔腫瘍に含まれて分類されることもあります。

胸腺腫は結合組織の被膜で覆われ、比較的ゆっくりと増殖し、転移も起こりにくいのですが、進行すると被膜を破り、周囲組織に浸潤します。さらに周囲の肺、心臓、大血管へ浸潤したり、播種といって胸腔へ種をまくように広がっていったりします。

《組織分類(WHO)》

タイプA(Medullary thymoma)紡錘形から卵円形の充実性でリンパ球はほとんど認めません。被膜を有し、良好な臨床経過を辿ります。

タイプAB(Mixed thymoma)タイプAと同様の形態ですが、リンパ球の少ない部分と未熟なリンパ球の豊富な部位が混在しています。腫瘍内に線維性隔壁を有します。

タイプB1(Predominantly cortical thymoma)豊富なリンパ球の中に、胞体の明るい類円形から多角細胞が存在します。

タイプB2(Cortical thymoma)タイプB1よりリンパ球は少なく、腫瘍成分が明らかになっています。

タイプB3(Thymic carcinoma)タイプB2よりさらにリンパ球は少なく、ほとんど上皮成分からなっています。

※まれな胸腺腫として、リンパ性間質を伴う小結節性胸腺腫、化生性胸腺腫、顕微鏡性胸腺腫、硬化性胸腺腫、脂肪性胸腺腫などがあります。

《病期分類(正岡分類)》

Ⅰ期腫瘍が完全に被膜で覆われているもの。

Ⅱ期腫瘍が被膜を破って周囲の脂肪組織へ浸潤するもの、あるいは被膜へ浸潤するもの。

Ⅲ期腫瘍が隣接臓器へ浸潤するもの。

Ⅳ期腫瘍が肋膜や心膜に種をまくように広がっているもの(播種)。あるいはリンパ節転移や他臓器への血行性転移があるもの。

【合併症】

重症筋無力症、赤芽球癆、低γグロブリン血症(特に気道感染を繰り返すものはGood症候群と呼ばれています)などがあります。重症筋無力症は、神経筋伝達物質であるアセチルコリンの受容体に対する自己抗体が作られることにより発症する自己免疫疾患です。特定難病疾患に指定されています。

【治療法】

基本的な治療は腫瘍の完全切除となります。重症筋無力症を伴う場合は、腫瘍と胸腺、周囲の脂肪組織を一塊として切除する拡大胸腺・胸腺腫摘出術が行われます。進行胸腺腫では、ADOC療法(シスプラチン、ドキソルビシン、シクロフォスファミド、ビンクリスチン)をはじめとした化学療法を行ったり、ステロイド治療、放射線治療を行うこともあります。

《化学療法》

・PAC療法(シスプラチン、ドキソルビシン、シクロフォスファミド)

・ADOC療法(シスプラチン、ドキソルビシン、シクロフォスファミド、ビンクリスチン)

・CAMP療法(シスプラチン、ドキソルビシン、メチルプレドニゾロン)

・PE療法(シスプラチン、エトポシド)

・VIP療法(PE療法+イフォスファミド)

・BEP療法(PE療法+ブレオマイシン)

※その他、ネダプラチン、カルボプラチン、ドキタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビンなどやステロイド等を用います。

〈ICD分類〉

良性胸腺腫 ⇒ D15.0

性状不明の胸腺腫 ⇒ D38.4

重力筋無力症 ⇒ G70.0