【軟部肉腫とは?】
軟部組織とは、臓器、骨、皮膚を除いた、筋肉、腱、脂肪、血管、リンパ管、関節、神経を指します。軟部肉腫とは、その軟部組織から発生した悪性腫瘍のことです。軟部肉腫は、発生度が低い稀な腫瘍で、「癌」とは区別されますが、悪性腫瘍を意味する「がん」の一種であることは間違いなく、転移を起こす可能性がある腫瘍です。
軟部肉腫は、手足、胴体、頭頸部、おなかの中など、体の色々な部位に発生します。そのうち、約60%が手足に発生すると言われています。また一般的に肉腫の転移は血行性であることがほとんどで、最も多い転移先は肺です。
【原因】
軟部肉腫発生の理由はわかっていません。しかし遺伝子素因などいくつかの危険因子は確認されています。危険因子はがんの発症リスクを高めますが、必ず軟部肉腫を発生させるわけではありません。
【主な軟部肉腫の種類】
軟部肉腫の種類は様々であり、分類が30以上あります。種類によってよく発症する年齢や発生する部位が異なります。
代表的な軟部腫瘍
《脂肪肉腫》
深部脂肪組織から発生します。全身から発生しますが、半数以上が大腿部、三分の一が腹部から発生します。
《平滑筋肉腫》
平滑筋という筋肉組織の一種の細胞から発生します。平滑筋は、心臓や胃のような器官の壁だけでなく、血管の壁にもあることから、体のどこにでも発生する可能性があります。好発部位は、子宮、四肢、胃です。
《滑膜肉腫》
通常、四肢、頸部の大関節の近くに発生します。
《悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)》
神経線維肉腫や悪性神経鞘腫と呼ばれることもあります。神経を取り囲む結合組織から発生します。
《未分化/未分類多形性軟部肉腫》
成人では最も多い肉腫です。全身に発生する可能性があります。好発部位は、下肢、特に大腿部です。
《血管腫》
血管の内層構造に発生することから全身に起こりえます。皮膚、乳房、肝臓、脾臓、深部組織に発生します。
《孤発性線維性腫瘍(SFT)》
主に胸膜に発生します。
《隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)》
真皮下深部組織に発生します。好発部位は、体幹、四肢、頭頸部です。
《線維異形成性小円形細胞腫瘍(DSRCT)》
思春期から若年成人に発生し、一般的には急速な進行をきたします。
《横紋筋肉腫》
随意運動を行う骨格筋を作る細胞から発生しますが、骨格筋が欠損している機関であっても、体のほぼどこでも筋肉を作る細胞から発生します。好発部位は、頭頸部、膀胱、膣、四肢、体幹などです。
特殊な軟部腫瘍
《御腹膜肉腫》
腹壁と腹膜との間の空間である御腹膜に生じます。一般的に腹部腫瘤の状態で存在し、症状がないまま非常に大きくなる可能性があります。
《子宮肉腫》
子宮の筋肉または子宮を支えているほかの結合組織に形成される腫瘍です。腫瘍の種類は、発生元となる細胞の種類に基づいて、平滑筋肉腫、内膜間質肉腫、未分化肉腫に分類されます。
《デスモイド線維腫症》
デスモイド腫瘍(深部、侵襲性線維症)は、創傷治癒や生命維持に不可欠な重要な臓器の構造において大きな役割を果たす細胞の一種である線維芽細胞から生じます。全身に発生する可能性があります。
《乳房肉腫》
乳房内の結合組織から生じます。原発性または二次性腫瘍のいずれでもありえます。原発腫瘍は明らかな原因がなく発症しますが、二次性腫瘍は放射線療法後や別の悪性腫瘍の治療後に、腕または乳房の慢性リンパ浮腫を結果として発症します。
【病期分類】
4つの病期分類がされます。
病期Ⅰ:低悪性度で、腫瘍の大きさが5㎝以下か、5㎝を超えるもの。所属リンパ節や遠隔転移はありません。
病期Ⅱ:高悪性度で、腫瘍の大きさが5㎝以下か、5㎝を超え、表在性のもの。所属リンパ節転移や遠隔転移はありません。
病期Ⅲ:高悪性度で、腫瘍の大きさが5㎝を超え、深在性のもの。所属リンパ節転移や遠隔転移はありません。
病期Ⅳ:所属リンパ節転移、遠隔転移があります。
【治療】
治療は、若年者に好発する横紋筋肉腫や軟部発生ユーイング肉腫などの円形細胞肉腫とそれ以外の中高年に発生する非円形細胞肉腫で大きく異なります。円形細胞肉腫は抗がん剤の効果が期待出来るため、化学療法と手術を組み合わせた集学的治療を行います。非円形細胞肉腫の治療は手術が基本です。
〈ICD分類〉
その他の結合組織および軟部組織の悪性新生物 ⇒ C49.0-9
子宮平滑筋肉腫 ⇒ C54.2
悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)⇒ C47.0-9
御腹膜肉腫 ⇒ C48.0
乳房肉腫 ⇒ C50.0-9
デスモイド線維腫症 ⇒ D48.1