【前立腺がんとは?】
前立腺は、精液の一部を作る男性にしかない臓器です。膀胱に連続してその下に尿道を取り囲むように位置しています。通常は3×4㎝程度の大きさです。この前立腺に発生するがんを前立腺がんといいます。
前立腺は、移行領域と中心領域からなる内腺部と辺縁領域からなる外腺部からなっています。通常、良性の前立腺肥大症は移行領域から発生し、前立腺がんの約70%は辺縁領域から発生します。
【原因】
前立腺がんは一般的には50歳以降に発生し、60歳以降に直線的に増加していきます。決定的な原因は明らかになっていませんが、遺伝や食生活、男性ホルモン、加齢などが関連すると考えられています。特に家族に前立腺がんの患者がいる人は注意が必要です。父親や兄弟が前立腺がんだとリスクが2倍、2人以上いる場合は、5~11倍に跳ね上がることがわかっています。そのほか元々前立腺がんは、欧米人が多くかかる病気であったため、食事の欧米化も懸念材料になっています。
【前立腺がんの病期分類】
《ABCD分類》
病期A:がんの症状なく、検査結果も異状なしで、前立腺肥大症の手術などで偶然発見されたがん
病期B:前立腺内に限局するがん
病期C:がんが被膜を越えて前立腺周囲の精嚢や膀胱へ浸潤したもの
病期D:リンパ節や骨に転移したもの
《TMN分類》
T:原発腫瘍(前立腺でのがんの広がり)
T1:蝕知不能、または画像診断不可能な臨床的に明らかでない腫瘍
T1a:組織学的に切除組織の5%以下の偶発的に発見される腫瘍
T1b:組織学的に切除組織の5%を超える偶発的に発見される腫瘍
T1c:針生検により確認される腫瘍(たとえばPSAの上昇による)
T2:前立腺に限局する腫瘍
T2a:片葉の1/2以内の進展
T2b:片葉の1/2を超え広がるが、両葉には及ばない。
T2c:両葉への進展
T3:前立腺被膜を超えて進展する腫瘍
T3a:被膜外へ進展する腫瘍(片葉、または両葉)
T3b:精嚢に浸潤する腫瘍
T4:精嚢以外の隣接組織(膀胱頸部、外括約筋、直腸、挙筋、または骨盤壁)に固定、または浸潤する腫瘍
N:所属リンパ節
N0:所属リンパ節転移なし
N1:所属リンパ節転移あり
M:遠隔転移
M0:遠隔転移なし
M1:遠隔転移あり
【前立腺がんの治療法】
転移のない前立腺がんの治療法を決定する前に、前立腺がんの危険度(リスク)の分類を行います。主に使用されるリスク分類は、AUA、EAU、NCCNの分類があり、一般的に低リスク、中間リスク、高リスクに分類されます。様々な選択肢がある治療法の中から適切なものを選択します。
転移のある前立腺がんの治療は、薬物療法(ホルモン療法)が中心となります。病気の状態によって薬を選択します。部位によって放射線外照射などの治療を追加することがあります。
ホルモン治療の効果がなくなると去勢抵抗性前立腺がんとなります。その場合は、新規ホルモン治療薬、抗がん剤の治療を行います。またBRCA遺伝子の変異がある場合は、PARP阻害剤(オラパリプ)を使用します。
《待機(監視)療法》
定期的なPSA測定、直腸指診を施行することにより、前立腺がんの進行度合いを観察し、必要な場合には前立腺生検を行い、以下の治療に移行します。
《手術療法》
基本的に手術によって根治が期待できる症例に対して行います。前立腺を精嚢腺とともに摘出し、膀胱と尿道を吻合する手術です。症例によって所属リンパ節も覚醒します。がんが前立腺にとどまっており、大きな合併症もなく期待余命が10年以上ある場合、T1~T2N0M0およびT3aN0M0の一部が適応となります。
根治的前立腺全摘除術(RP)が標準的な術式です。
現在一般的に行われている根治的前立腺全摘除術(RP)には恥骨後式前立腺摘除術(RRP)と腹腔鏡下前立腺全摘除術(LRP)の二つがあります。
恥骨後式前立腺摘除術(RRP):下腹部を縦に約15㎝切開して、直視下に前立腺とともに精嚢を一塊として摘出し、膀胱の出口と尿道とを吻合する手術方法です。前立腺全摘除術に先立って骨盤内リンパ節摘出術を行い、リンパ節転移の有無を検査します。早期前立腺がんに対する最も標準的な治療法の一つです。
腹腔鏡下前立腺全摘除術(LRP):皮膚に開けた3~5カ所の穴からカメラと細長い手術器具を使用しておなかの中に炭酸ガスを注入して膨らませます。そして、体の外から前立腺とともに精嚢を一塊として摘出し、膀胱の出口と尿道とを吻合する手術方法です。リンパ節に転移がないと考えられる、より早期のがんを対象にしています。
そのほかにも以下のような手術があります。
会陰式前立腺全摘除術:肛門周囲を逆U字型に切開して会陰から前立腺に到達します。
恥骨上式前立腺摘除術:膀胱を開放して膀胱内から腫瘍を摘除する方法です。
《放射線治療》
外照射法:転移のない前立腺がん、すなわち早期がんから局所進行がんに対して、体の外から高エネルギーのX線を前立腺に照射して治療する方法です。
組織内照射法(密封小腺源療法):放射線を放出する物質(ヨウ素125)を密封した小さな線源を、前立腺の中に永久に埋め込み照射する方法です。
《内分泌療法(ホルモン療法)》
前立腺がんは男性ホルモン(テストステロン)によって増殖します。内分泌療法とは、男性ホルモン(テストステロン)の分泌抑制や働きを遮断することによって、前立腺がん細胞の増殖を抑制する治療法です。
内分泌療法には外科的去勢(精巣摘除術)と薬物療法があります。薬物療法には注射と飲み薬があります。注射はLH-RH agonistもしくはantagonistと呼ばれる皮下注射です。また飲み薬は抗男性ホルモン剤(抗アンドロゲン剤)を内服します。
《化学療法》
去勢抵抗性前立腺がんや、はじめから内分泌治療が効かない症例に行います。ドセタキセルに効果が不十分な場合、カバジタキセルという薬剤を使用することが可能です。
《PARP阻害剤》
BRCA1、BRCA2遺伝子に異常がある場合にPARP阻害剤が使用できます。
〈ICD分類〉
前立腺がん ⇒ C61
〈ICD9-CM〉
恥骨上式前立腺摘除術 ⇒ 60.3
恥骨後式前立腺摘除術(RRP)⇒ 60.4
腹腔鏡下前立腺全摘除術(LRP)⇒ 60.5
根治的前立腺全摘除術(RP)⇒ 60.5
前立腺の局所切除術 ⇒ 60.61
会陰式前立腺全摘除術 ⇒ 60.62
両側性精巣摘除術 ⇒ 62.4