【心不全とは?】
心不全とは病名ではなく、様々な原因疾患が引き起こす心臓機能弱化の症候群のことをいいます。一言でいえば、心筋梗塞や心臓弁膜症、心筋炎などの心臓の様々な病気や高血圧などが原因となり、心臓が体の需要を満たせなくなった状態です。全身に血液を送り出すポンプ機能が働かないことで、全身の血液の循環が滞り、心臓の硬化や機能低下をさらに引き起こします。
【心不全の分類①】
心不全の分類には、二つの観点があります。一つは、問題を起こしているのが心臓の左心系であるのか、右心系であるのかという観点です。そしてもう一つが急性であるか慢性であるかという観点です。
《左心不全と右心不全》
左心不全:主に心臓の左心系に問題があって生じる心不全を左心不全といいます。左心不全は、何らかの原因で左室から大動脈に十分な血液が送り出せなくなることで生じます。そうなると左房や肺静脈、肺でも血流が滞り、肺うっ血や肺水腫が引き起こされます。
右心不全:何らかの原因で右室から肺に血液を送り出す力が弱まることで生じます。こうなると肺に送られなかった血液が右心系に滞り、全身から心臓に戻る肺静脈も滞るようになってしまいます。その結果、肝腫大や腹水が引き起こされます。
《急性心不全と慢性心不全》
急性心不全:急性心筋梗塞などが原因で発症することが多いようです。激しい呼吸困難などとともに、心拍出量が大きく低下し、血圧が維持できなくなってショックに至ることがあります。
慢性心不全:徐々に進行します。それに対抗して代謝機構が働くために、症状が出にくく、症状が現れたときには悪化した状態になっています。慢性心不全が重症化すると、経過中に何度も急性増悪(急性心不全の発症)を起こすようになってしまいます。またうっ血を主症状とする慢性心不全を「うっ血性心不全(CHF)」と呼びます。
【心不全の分類②】
心不全は、駆出率※によって二つに分類されます。
※駆出率とは、一回の心拍で心臓から送り出される血液の割合のことをいいます。
駆出率が低下した心不全(HFrEF:収縮性心不全):心臓の収縮力が弱まり、心臓に戻ってきた血液のうち、外に送り出す血液の比率が低下します。そのため、心臓に血液が溜まり、さらに肺、静脈にも溜まるようになってしまいます。
駆出率が保持された心不全(HFpEF:拡張性心不全):心臓が硬化することで収縮後に十分に拡張できなくなり、それによって血液を取り込む能力が低下します。最終的には、収縮性心不全と同じように、血液が肺や静脈の中に溜まるようになってしまいます。
【心不全の重症度】
《急性心不全》キリップ分類
クラスⅠ:心不全の兆候はない。
クラスⅡ:軽度から中等度の心不全。ラ音(肺からの異常な呼吸音)を聴取する領域が全肺野の50%未満
クラスⅢ:重症の心不全。肺水腫が認められる。ラ音聴取の領域が50%以上
クラスⅣ:心原性ショックの状態。血圧が90㎜Hg未満。尿量の減少。チアノーゼ、冷たく湿った皮膚、意識障害を伴う。
《慢性心不全》ニーハ分類
Ⅰ度:通常の身体活動では、過度の疲労、息切れ、動機などは起こらない。
Ⅱ度:軽度。通常の身体活動により、疲労、息切れ、動悸、胸の不快感(狭心症)が起こる。
Ⅲ度:中等度。安静時には不快感なく過ごせるが、通常よりも軽い身体活動により、疲労、息切れ、動悸、胸の不快感(狭心症)が起こる。
Ⅳ度:重度。安静時にも症状が現れる。少し動くだけで症状が悪化する。
【心不全の原因】
心不全の原因は、心臓に直接影響を及ぼす病気(心原性)と心臓に間接的に影響を及ぼす心臓以外の部位の病気(非心原性)の二つに分けられます。
《心不全の原因となる心原性の病態》
・心筋梗塞、狭心症などの冠動脈疾患
・心筋炎
・アルコールなどの毒素
・心臓弁膜症
・心室中隔欠損症などの心腔間の異常な交通
・心臓の刺激伝導系を障害し、不整脈を引き起こす病気
・デュシェンヌ型菌ジストロフィーやダウン症などの一部の遺伝性疾患
・アミロイドーシス、シャーガス病、収縮性心膜炎など心臓が硬化する病気
《心不全の原因となる非心原性の病態》
・充分に治療されていない高血圧
・肺高血圧、肺塞栓症
・貧血
・甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症などの甲状腺の疾患
・腎不全
【治療】
心不全の原因となった疾患の種類や重症度などによって、治療法は変わってきます。
基本的には薬物療法が行われます。血管を拡張するための薬や心臓の働きをよくするための薬を服用します。必要に応じて、不整脈の発症を抑える薬や利尿薬なども処方されます。
中等度から重度の心不全の場合、薬物療法と並行してペースメーカーの植え込み術が行われることもあります。
〈ICD分類〉
(慢性)うっ血性心不全 ⇒ I50.0
右心不全 ⇒ I50.0
左心不全 ⇒ I50.1
急性心不全 ⇒ I50.9
慢性心不全 ⇒ I50.9
心不全NOS ⇒ I50.9