糸球体疾患の基礎知識② 糸球体の組織病型

 
やまねこ
糸球体のどこで障害が起こったかで、病態が変わってくるニャ

【糸球体の構造】

糸球体は4つの構造で成り立っています。

  • 上皮細胞(最も外側に位置しています。蛋白漏出を防ぐ役割をしています)
  • 基底膜(上皮細胞を裏打ちしています。バリアの構造をしています)
  • 血管・血管内細胞
  • メサンギウム(最も内側に位置し、これらの構造を繋ぎ留める役割をしています)

血管と血管内皮細胞の塊が基底膜と上皮細胞に含まれています。血管と血管内皮細胞はその構造が崩れないようにメサンギウムで繋ぎ留められています。

基底膜より内側の障害か、外側の障害かで、糸球体疾患は分類されます。

基底膜の内側の疾患:血管内膜とメサンギウムの間には基底膜が存在しないため、血液中の炎症細胞、抗体、免疫複合体はメサンギウムへと行き来がしやすく、炎症が起こりやすいです。また腎炎の病態を取ることが多いです。

基底膜の外側の疾患:メサンギウムとは異なり、上皮細胞はすべて基底膜によって裏打ちがされています。このため、血液中の炎症細胞、抗体、免疫複合体が上皮細胞に到達することが難しく炎症は起こりにくいです。したがって、上皮細胞で障害が起こる場合は、上皮細部で突発的に障害が起こる場合や、全身性の免疫を介さず局所的な免疫反応が起こる場合が考えられます。いずれの場合も上皮細胞が障害されるためネフローゼの病態を呈することが多いです。

【糸球体の組織病型】

[A  微小糸球体変化]

[B  巣状分節性病変]

[C びまん性糸球体腎炎]

1.腹膜腎症

2.増殖性糸球体性腎炎

(ⅰ)メサンギウム増殖性腎炎

(ⅱ)管内増殖性糸球体腎炎

(ⅲ)半月体形成性(菅外性)壊死性糸球体腎炎

3.硬化性糸球体腎炎

[D 分類不能の糸球体腎炎]

【組織病型のそれぞれの病態】

A「微小糸球体変化」:1~2週間という短期間のうちに大量の尿蛋白の出現、血清蛋白質濃度の低下、尿量減少と体重増加、下肢から全身に広がるむくみなどを引き起こす病気です。腎臓の組織を調べてもほとんど異常がなく、電子顕微鏡で調べるとわずかな異常が見られるだけです。

B「巣状糸球体硬化症」:20~40歳代で蛋白尿を主体とした検尿異常で発症することが多い病気です。蛋白尿の程度は比較的多量で、下肢のむくみや軽度の体重増加をきたすことが多いようです。腎臓の糸球体が硬くなっていく病気で、10~20年で末期腎不全にとまり血液透析をする必要になります。

C-1「膜性腎症」:比較的高齢の方に発症する、蛋白尿を主体とした糸球体腎炎です。ネフローゼ症候群をきたすことが多い疾患です。3か月~半年という経過で蛋白尿や下肢のむくみなどが生じます。治療を開始して1か月くらいで薬の効果が表れ、約半で蛋白尿も(1+)程度まで改善することが多いです。しかし蛋白尿が多く治療に反応しないステロイド抵抗性の場合、徐々に腎機能が低下し、末期腎不全に至る場合もあります。顕微鏡で観察すると、糸球体の基底膜の内部や外側の部分に沈着物が付着しています。

C-2-ⅰ「メサンギウム増殖性糸球体腎炎」:メサンギウムは「血管周囲の平らな場所」のような意味合いを持ちます。糸球体は毛細血管が毛玉のようになっており、その毛細血管を内側からつなぎ合わせているのがメサンギウムです。メサンギウムの一部は直接血流に触れており、メサンギウムが炎症を起こすと蛋白尿や血尿がみられます。炎症が波及し、広範囲に広がると腎機能障害が起きます。

C-2-ⅱ「管内増殖性糸球体腎炎」:管内とは糸球体の毛細血管の管腔内のことを意味します。糸球体の毛細血管は特殊な濾過膜構造を持っており、血管の内側を内皮細胞が取り囲んでいます。その内皮細胞が障害されて炎症を起こすと蛋白尿や血尿が見られます。

C-2-ⅲ「膜性増殖性糸球体腎炎」:糸球体の毛細血管は特殊な濾過膜構造を持っています。その濾過膜を基底膜といい、その毛細血管を内側からつなぎ合わせているものをメサンギウムといいます。膜性増殖性糸球体腎炎とは、その基底膜を傷害し、メサンギウムにも炎症を及ぼす疾患のことを言います。膜性増殖性腎炎は膠原病、感染症、あるいは血液疾患などに続発する場合もあります。治療が奏功しない場合は、進行性で、末期腎不全に至る場合があります。

C-2-ⅳ「半月体形成性壊死性糸球体腎炎」:糸球体はボーマン嚢という袋に覆われています。毛細血管の一部が破綻(壊死)し、血管内の炎症がボーマン嚢まで及ぶと、ボーマン嚢の細胞が刺激されて糸球体とボーマン嚢の隙間に半月型や三日月型に増殖します。これを半月体形成性壊死性糸球体腎炎といいます。腎炎の活動性が高く、多くは血管炎に見られます。腎機能は蛋白尿、血尿を伴い、数カ月で悪化し、末期腎不全に至る可能性があります。

C-3「硬化性糸球体腎炎」:糸球体障害が進行し、糸球体が広範囲に目詰まりを起こした状態です。

 
やまいぬ
色々と種類があり過ぎて目が回りそうだワン

〈ICD分類〉

微小糸球体変化 ⇒ N00-7.0

巣状糸球体硬化症 ⇒ N00-7.1

膜性糸球体腎炎 ⇒ N00-7.2

膜性腎症 ⇒ N00-7.2

メサンギウム増殖性糸球体腎炎 ⇒ N00-7.3

膜性増殖性糸球体腎炎1型及び3型またはNOS ⇒ N00-7.3

管内増殖性糸球体腎炎 ⇒ N00-7.4

デンスデポジット病(膜性増殖性糸球体腎炎2型) ⇒ N00-7.6

半月体形成性壊死性糸球体腎炎NOS ⇒ N00-7.7

増殖性糸球体腎炎 ⇒ N00-7.8

慢性糸球体腎炎 ⇒ N03.0-9

硬化性糸球体腎炎 ⇒ N18.9