【皮膚の構造】
皮膚は「表皮」「真皮」の二層から構成され、その下に「皮下脂肪織」があります。
《表皮》
「表皮」は、表面から「角質層」「顆粒層」「有棘細胞層」「基底細胞層」で構成されます。「基底細胞層」にはメラノサイトがあり、メラニン色素を発生させます。
《真皮》
「真皮」はコラーゲンなどの線維組織からなり、微小な血管網、神経を有しています。また、皮膚の毛や脂腺、汗腺、汗管など付属器は真皮から表皮にかけて存在しています。
【皮膚がんの種類】
皮膚は様々な組織を含み、そのそれぞれの細胞が癌化します。主な皮膚がん、または前がん状態のものとして、「基底細胞がん」「有棘細胞がん」「ボーエン病」「パジェット病」「悪性黒色腫(メラノーマ)」があります。
表皮細胞由来
《基底細胞がん》
表皮の基底細胞や毛包を構成する細胞から発病する皮膚がんです。皮膚がんの中で最も発生が多いがんです。高齢者に発症することが多く、好発部位は、目や口、鼻の周りなどの顔面です。いわゆるほくろに似ていますが、ほくろに比べて青黒く、表面がろうそくのように光沢を持ちます。転移することは稀です。性状や組織の細胞の形から「結節潰瘍型」「瘢痕化扁平型」「表在型」「斑状強皮症型」に分けられます。
原因 ⇒ 不明。紫外線、外傷、放射線、熱傷瘢痕が関係することがあります。
《有棘細胞がん(扁平上皮がん)》
表皮の中のケラチノサイトという部分から生じた皮膚がんです。基底細胞に次いで発生頻度が高いです。表面が疣状またはびらんなどを混ずる紅色調の腫瘤で、潰瘍状の場合もあります。表面が腐って深い穴を形成し、悪臭を伴うこともあります。
原因 ⇒ 不明。ただし紫外線、慢性刺激、慢性炎症、ウイルス、放射線などが関与していることはわかっています。特に紫外線の刺激による日光角化症は、有棘細胞がんの前駆症といわれています。
《ボーエン病(Bowen病)》
有棘細胞がん同様、表皮の有棘層の細胞が癌化しますが、その増殖は表皮の中だけに留まり、真皮には及びません(表皮内がん)。したがって、通常は転移することはありません。中年以降に発症し、表面が赤く、ざらざらした状態で、形は円形やいびつな形をしています。躯幹、特に外陰部、背部に多く発生します。
原因 ⇒ 紫外線やヒトパピローマウイルスが関与しているといわれています。多発する場合は、砒素摂取が関連しているとされています。
皮膚付属器(毛穴、腺線、汗腺など)由来
《パジェット病(Paget病)》
汗を産生する汗器官由来の細胞が癌化する表皮内癌です。パジェット細胞という癌細胞が増殖しますが、最初は表皮の中だけに留まり、真皮には及びません。進行して真皮まで腫瘍細胞が浸潤したものをパジェットがんと呼びますが、一般的にパジェットがんも含めてパジェット病と呼ぶこともあります。乳頭や乳輪に生じる乳房パジェット病と陰部や腋などに生じる乳房外パジェット病があります。乳房外パジェット病は、60歳以上の高齢者に多く発生します。
原因 ⇒ ハッキリとした原因は不明です。
メラノサイト由来
《悪性黒色腫(メラノーマ)》
メラニン色素を作り出すメラノサイトが癌化して発生する皮膚がんです。人種差があり、白人で発生が最も多く、日本人は10万人あたり1~2人とされています。しばしば転移を起こして命を落とす悪性度の高い皮膚がんであるため、確実な診断と治療が必要になります。
原因 ⇒ ハッキリとした原因は不明です。外的刺激、紫外線などが誘因になることがあります。
〈悪性黒色腫(メラノーマ)の病型分類〉
悪性黒子型(発症頻度約10%):高齢者の顔面に多く、10年以上かけて水平方向に徐々に大きくなり、病変内に腫瘤や潰瘍が生じます。慢性の紫外線照射が関係すると言われています。
表在拡大型(発症頻度約20%):あらゆる年齢層の体幹、下腿に生じます。紫外線照射が関係すると言われており、白人では最も多い病型です。
結節型(発症頻度約10%):結節、腫瘤のみで色素斑が生じない病変です。腫瘍の厚さが予後に関係するため、この病型は一般に予後がよくありません。
末端黒子型(発症頻度約40~50%):50歳以降の足底、指趾爪部に好発します。最初は不整形の黒色斑で始まり、数カ月から数年を経て色素斑内に結節や腫瘤、潰瘍を生じます。外的刺激が誘因になると考えられています。
粘膜型(発症頻度約10%):中年から高齢者の口唇、口腔内、眼瞼、鼻腔、外陰部粘膜に生じ、水平方向の増殖は数カ月~数年です。反復する機会刺激や外傷が誘因になると考えられています。予後不良にことが多いです。
【皮膚がんの病期分類】
《悪性黒色腫を除く皮膚がんの病期分類》
0期:がん細胞が見られますが、表皮に留まっている状態。「表皮内がん」と呼び、がんの一歩手前の状態です。日光角化症やボーエン病が当てはまります。
Ⅰ期:腫瘍の大きさが直径2㎝以下、真皮だけ、または真皮から皮下組織の中に留まっている時期です。
Ⅱ期:腫瘍の大きさは2㎝を超えていますが、真皮・または真皮から皮下組織の中に留まっています。
Ⅲ期:腫瘍の大きさに関わらず、腫瘍の深さが皮下組織を超えて筋肉・軟骨・骨などに及んでいる時期。または腫瘍の大きさに関わらず、所属リンパ節に転移があるものです。(※同時にいくつもの腫瘍がある場合は、そのうち最も進行した腫瘍で分類します)
Ⅳ期:所属リンパ節を超えて遠隔転移している時期です。
【病期別治療】
0期:表皮のみの病変。腫瘍の辺縁から0.3~0.5㎝離して、深部は脂肪組織深層を含めて切除します。
Ⅰ期:腫瘍の辺縁から1㎝(IB期の一部は1~2㎝)離し、表皮・真皮・皮下脂肪組織または筋膜を含め広汎切除します。ⅠB期はセンチネルリンパ節生検を行うこともあります。センチネルリンパ節陽性の場合は、Ⅲ期として対応します。
Ⅱ期:腫瘍の辺縁から2㎝(ⅡA期の一部は1~2㎝)離し、表皮・真皮・皮下脂肪組織または筋膜を含め広汎切除します。しばしば植皮手術も行われます。ⅠB期同様にセンチネルリンパ節生検を行うこともあります。センチネルリンパ節陽性の場合にはⅢ期として対応します。
Ⅲ期:腫瘍の辺縁から2㎝離して広汎切除します。そのうちで、センチネルリンパ節陽性例では、通常は定期的なリンパ節エコーやCTによるフォローとなりますが、病状によってはリンパ節郭清術と薬物療法を行う場合もあります。臨床的に領域リンパ節陽性が明らかな例では、原発巣切除とリンパ節郭清術を同時に行い、術後に領域リンパ節に対する放射線治療も考慮します。
Ⅳ期:一次療法として、分子標的薬あるいは免疫チェックポイント阻害剤による薬物療法を行います。病状に応じて、二次療法を行うことがあります。免疫チェックポイント阻害剤には、抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)があり、両者の併用療法が行われています。分子標的薬には、BRAF阻害剤(ベムラフェニブ、ダブラゲニブ、エンコラフェニブ)、MEK阻害剤(トラメチニブ、ビニメチニブ)があり、分子標的薬は、BRAF遺伝子変異を有する場合のみ適用となります。単剤あるいは併用療法が行われています。
〈ICD分類〉
皮膚の悪性黒色腫 ⇒ C43.0-9
外陰悪性黒色腫 ⇒ C51.9
皮膚のその他の悪性新生物 ⇒ C44.0-9
外陰部アポクリン腺がん ⇒ C51.9
外陰部有棘細胞がん ⇒ C51.9
外陰部がんNOS ⇒ C51.9
ボーエン病(皮膚)⇒ D04.0-9
ボーエン病(外陰部)⇒ D07.0-6
乳房パジェット病 ⇒ C50.0
乳房外パジェット病 ⇒ C44.9
外陰部パジェット病 ⇒ C51.9